嵐のピクニック/本谷有希子

2014年の東京国際文芸フェスというイベントで、本谷さんにサインをもらった記念の一冊。
当日本谷さん自身で朗読もしてくれたのだが、
その声はご本人同様、透明感のあるとても可愛らしい声だった。

本谷作品と言われて真っ先に思い浮かぶのが、サトエリ主演で映画にもなった「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」だ。
人間関係のどろどろとした部分や、真っ当に生きられない人間のもがく姿、「人のエゴ」をあぶりだす本谷節が炸裂している。

しかし、この「嵐のピクニック」は、そんな本谷さんの印象をがらりと変えてみせた。
13篇の短編はどれも違った色をしていて、
「ほらほらこんなに引き出しがこんなにありますよ」と読者に頭の中を見せてくれているようだ。

私の一番好きな話が、「哀しみのウェイトトレーニー」。
「わたし」は平凡で地味な普通の主婦。
完璧主義の夫とは結婚7年目で、関係は冷えきっている。

TVでボクシングの試合を見たことがきっかけで、
ボディビルダーを目指す事を思い立つ。
フィットクラブへ入会し、知り合った年下のトレーナーと二人三脚の特訓が始まる。
もちろん、夫や仕事の同僚には内緒で。
体形の変化から職場ではバレてしまうが、それでも夫は気づかない。

「わたし」はボディビルに打ち込むことで、
夫が自分に無関心であることの悲しみや、もっと自分の他の一面を知ってほしいという願望、
自ら抑え込んでいた感情があることに気づく。

「私は、平凡な主婦じゃない。私は夫に無関心でいられる主婦じゃないわ。」

この話は、「日常」という舞台の上で、
一人の女性がアイデンティティを確立していく過程を見事に描ききっている。

本人が変わったことで、これまで見ていた風景ががらっと変わる。
自分が変わるきっかけなんて、日常のどこだって転がってるんだと、
自信をもつことへの可能性を見出してくれる。

結婚6年目の友人が言った一言を思い出した。
「結婚したら、自分より旦那と子どもが最優先事項で、
自分のしたい事とか、いる意味ってなんだろうって、たまに考える」

私は結婚していないので、彼女の悩みを聞くことしかできなかったけど、
「でもさ、中学の時Tommyfebruaryのモノマネうまかったじゃん」って言ったら、
笑っていた。
本心は、自信もってと言いたかったのだけれど。

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