書籍

彼女は頭が悪いから/姫野カオルコ

 

この本は、2年前に起きた東大生強制わいせつ事件に着想を得た小説。

読み終えた感想は「しんどい」。

作者は実際に裁判傍聴にも行っており、事実とフィクションが曖昧になるくらい綿密に書きあげられた文章だ。

そして、その文章からは隠すことのできない怒りが伝わってくる。

きっと、読んだひとによって色々な感じ方があると思うので、

ここからは一個人の意見としてとどめてください。

 

冒頭に作者はあらかじめ断る。

この本は猥褻な好奇心を満たす内容ではないと。

事件が起きたあと、マスコミ報道に対してSNSや5ちゃんねるに書き込まれたのは、

のこのこ部屋に行った女が悪い。

東大生が可哀想。

勘違い女。

果たして、本当に被害者は勘違い女だったのか。

作者は問う。

私たちは報道を見てその切り取られた一部分を見て判断する。

その与えられた情報を元に、世間一般の常識と照らし合わせながら、

加害者や被害者のパーソナリティを想像する。

この作品の主人公(被害者)である美咲は、女子大に通っているいわゆる普通の女の子。

そして加害者の5名は東大生として、社会的な肩書と信頼を持っていた。

その中の一人であるつばさとは、恋に落ち、一時は恋人同士として時間を過ごしていたこともある。

ある一室のマンションで事件は起こった。

彼女は自分が信じていた一番好きな相手から裏切られた。

その時の彼女の悲しさは計り知れない。

さらに、彼女を傷つけたものは、ネットに書き込まれる不特定多数の「声」だった。

偏差値の高くない大学に通う女=頭が悪い

だから、

「東大生の彼」を捕まえようとして自分からその場に飛び込んでいったと人の目には映る。

下心があって自分から近づいたくせに、騒ぐなと。

一方、彼らにとって逮捕されたことは身に降りかかった『災厄』であり、

なぜあの時彼女が泣いていたのか、逃げ出したのかすら想像ができない。

合理的に、その時その時の正解を選びとってきた彼らには、

ひとの感情を想像する無駄な時間は持ち合わせていなかったと描かれる。

 

この小説を読んで、何ページも割いて徹底的に描かれているのは、

美咲とつばさの正反対ともいえる家庭環境、生立ちである。

彼らの「東大生だから」という選民意識は、急に生まれたものではなく、

何年も積み重ねて出来上がったものだということを作者は表したかったのかと思う。

そして平凡な家庭に育った普通の女の子である美咲が、

つばさのことを白馬に乗った王子様だと思い、恋してしまうのも、

つばさが言った「(他の男は)見る目ないね。」という何気ない一言で十分だった。

 

青春小説としてはかなり嫌な気持ちになる小説だけど、

自分だって2016年にこのニュースを見て「単純に自業自得だ」と思っていたのかもしれないし、

「あれは女が悪いよね」と言っていたかもしれない。

作者は、この話を読んで私たちに「私はこう思いました。ではあなたはどうですか?」

と投げかけている気がしてならない。