少女は卒業しない/朝井リョウ

 

 

伸ばした小指のつめはきっと、春のさきっぽにもうすぐ届く。

つめたいガラス窓の向こうでは風が強く吹いていて、

葉が揺れるのをみているだけでからだが寒くなる。

 

これまで朝井リョウに対しては「桐島、部活やめるってよ」「チア男子!!」「何者」と

ヒットを飛ばす人気若手作家というイメージを勝手に抱いていた。

捻くれている自分は、話題になっている時にあえて買わん!と頑なに読まずにいた。

謎の非買運動を行っている中、たまたま「少女は卒業しない」を手に取って

パラパラとめくった。

で、冒頭の一節を読んで心を摑まれてしまった。

 

たったこれだけで学生時代の懐かしさや、卒業間際のソワソワした感じが一気に蘇ってくる。

これが、朝井リョウか・・・と非買運動にピリオドをうち、

結果めちゃくちゃ良い小説だった。

 

この本は、翌日には校舎が取り壊されてしまう地方の高校が舞台で、

卒業式の一日を7人の少女の視点から描いた短編集。

中でも短編最後を飾る「夜明けの中心」が特に印象に残っている。

 

校舎の幽霊。どの学校でもそういった類のうわさはある。

東棟の校舎に出るという幽霊の噂が、南棟にうつりかわった時期があった。

 

真夜中の教室も、誰もいない校舎も、全然怖くない。

だってあたしは、あの子たちがあんなにも怖がっていたものを、

いま、こんなにも探している。

 

卒業式終了後に夜の校舎に忍び込む、主人公の「あたし」。

そして同じことを考えていた人物がもう一人、香川がそこにいた。

かつてあたしには駿という恋人がいて、香川、駿とあたしの三人は友達だった。

香川と駿は剣道部でお互い友人でもあり良きライバルでもあった。

あたしは料理部員で、南棟の三階のはしっこにある調理室で

クッキーを焼き、駿のために作ったお弁当を温めて一緒に食べた。

それがほんの一瞬の出来事で、平穏な日々は崩れ去った。

 

時間が止まってしまったあたしと香川は、

明日取り壊される校舎で、お互い向き合うことができなかった、

その過去に踏み込むことで未来に一歩進もうとする。

 

朝井リョウの文章は、短編の映画を見てるみたいだ、と思う。

それこそ、桐島~の時の神木君みたいに8ミリカメラを持ってまわって

どこかの学校に忍び込んできたんじゃないかと思うくらい描写が鮮明だ。

そしてなにより

なくなってしまうものの象徴としての「校舎」と、

時間的な制限である「卒業」。

どちらも限られているからこそ、青春時代の儚さと美しさがそこにあるんだと

言っているような気がしてならない。

 

このあと朝井リョウの代表作を色々読んでみたけれど、

やっぱりこの本が一番好きだ。